ベランダのミニトマトに、マグァンプDを使いました。肥料と農薬が一体になった粒剤で、定植時に土に混ぜ込むタイプのものです。
成分を調べてみると、ジノテフランというネオニコチノイド系の農薬が含まれていました。哺乳類(人間含む)への毒性が比較的低く、害虫に効く、浸透移行性の殺虫成分です。
ミニトマトへの登録もある。使い方も守っている。
それで十分だと思っていたのですが、「同じネオニコチノイド系のオルトランはミニトマトへの登録が消されている」「そもそもジノテフランって本当に安全なのか」という問いが残りました。
調べ始めたら、思っていたより話が大きかったです。
農薬登録の仕組み・ジノテフランの現状
農薬は、有効成分ごとに国が安全性を審査し、登録して初めて使えるようになります。同じネオニコチノイド系でも、成分が違えば審査も別。登録の可否も別です。オルトランの成分であるアセフェートがミニトマトへの登録を取り消された後も、ジノテフランが使えるのはそのためです。
では、ジノテフランの審査は終わっているのかというと——現在進行中です。
日本では2021年から、すでに登録されている農薬を改めて評価し直す「再評価制度」が始まりました。ジノテフランもその対象で、メーカーによる資料提出は完了しており、現在は各省庁で評価が進められている段階です。
登録されている=安全が確定している、ではない。使いながら、審査が続いている。そういう状況です。
ネオニコチノイド系のEU規制と日本の現状
ジノテフランは、EUでは承認されていない農薬です。
EUはここ10年ほどでネオニコチノイド系農薬の規制を大幅に強化しており、主要な種類については屋外での使用禁止や残留基準値の大幅引き下げを進めています。日本でも使われているネオニコチノイドの多くが、EUではすでに使用禁止か、禁止に向かっている状況です。
一方、日本では2015年以降、一部のネオニコチノイド系農薬の残留基準値をむしろ緩和する方向に動きました。世界の流れと逆行しているという指摘が、研究者や市民団体から出ています。
「先進国で最も規制が緩い」とまで言い切れるデータは手元にありませんが、少なくともEUとは大きく方向性が異なっています。日本で当たり前に使われているものが、EUでは承認すらされていない。ジノテフランはその代表例のひとつです。
妊婦の尿・水道水からの農薬成分検出
ネオニコチノイド系農薬は、食べ物や水を通じて体内に取り込まれます。
環境省が約10万組の親子を対象に行った大規模調査(エコチル調査)では、妊娠中の女性のほぼ100%の尿からネオニコチノイド系農薬が検出されました。さらに、胎盤を通過して胎児にも移行することが確認されています。
水道水についても、各地で検出の報告があります。秋田県での調査では、水道水からネオニコ系農薬が検出され、その濃度はEUの規制値の約8.7倍だったとされています。ただし日本の国内目標値は下回っており、行政の見解は「直ちに健康被害が出るおそれはない」というものです。
また、活性炭処理をしている浄水場では検出されないケースも多く、地域によって状況はかなり異なります。
「直ちに危険」ではないかもしれない。でも、知らないうちに摂り続けている、という事実はあります。
それでも農薬は、昔よりマシになってきている
ここまで書いてきて、かなり怖い話になってしまいました。少し立ち止まります。
かつては哺乳類への毒性も強い農薬が普通に使われていた時代がありました。より安全なものへ、という方向に農薬は変わってきています。ネオニコチノイドもその流れの中で生まれた農薬です。問題がないとは言えない。でも、昔よりはマシになっている、とは思っています。
父が子どもの頃、シラミ対策として頭にDDT(粉末の殺虫剤)を直接浴びせられたそうです。大量の農薬を、小学生くらいの子どもが、頭から直接かぶるんですよ。信じられますか??今の感覚だとありえないですよね。
当時は「安全な殺虫剤」と「夢の殺虫剤」して広く使われていましたが、その後、生物濃縮の問題が明らかになり、1971年に日本では禁止されました。
それに、父から聞いた話では、農地(畑や田んぼの、作物を植える部分)と畦道では農薬の撒き方が違ったそうです。畦道は作物を直接植えるわけではないからと、白いDDTを大量に撒いていたと。私が小さい頃、田んぼの畦道で遊んでいて、へびいちごなんかを食べようとすると、父に「農薬まみれだから口に入れるな」と言われていました。DDTの時代を知っている世代の、体に染み付いた感覚だったのだと思います。
農薬との付き合いは、世代をまたいで続いています。昔よりはずっとマシになっている。でも、何が問題かは使いながらわかっていく、その繰り返しでもあります。ネオニコチノイドも、今まさにその途中にあるのかもしれません。
ただ、頭からぶっかけていた時代と、食品や水道水に微量が混入している今とでは、曝露の仕方がまったく違います。昔よりはどんどんマシになっている、とは思っています。
「検出される=危険」ではなく、どの程度の量で、どんな影響があるのか、まだ研究が続いている段階です。私自身は水道水をそのまま飲みますし、外食もするしお惣菜も買います。全部無農薬にするのは現実的に無理ですし、過度に気にしすぎること自体、体に悪いと思っています。ノーシーボ(ノセボ)効果——「体に悪いと思い込むことで本当に体調が悪くなる」——というものもあります。
知った上で、折り合いをつけながら生活する。それが今の私の答えです。
ネオニコチノイド系農薬の養蜂への打撃
さて、ここまで「人体への安全性」についてお話ししてきましたが、次は環境への負荷の話です。
ネオニコチノイド系農薬とミツバチの関係は、世界的に問題になっています。
日本では特に、稲の開花期に行われるカメムシ防除の農薬散布が、養蜂業に影響を与えるケースが報告されています。農林水産省の調査でも、ミツバチの被害が発生した蜂場の周辺で、ジノテフランを含むネオニコチノイド系農薬の散布が確認された事例が多数記録されています。
ミツバチが巣ごと消えてしまう「蜂群崩壊症候群」との関係も指摘されていますが、こちらはネオニコチノイドが「一因とされている」段階で、因果関係が完全に証明されているわけではありません。
ただ、農薬の容器には「養蜂が行われている場合は関係機関へ情報提供すること」という注意書きがあります。ミツバチへの影響が無視できないことは、メーカー自身も認めているということです。
ミツバチは果樹や野菜の受粉にも深く関わっている益虫です。ミツバチがいなくなったら、かなりの受粉を人の手でやらなければなりません。
ネオニコチノイド系農薬を使った農業が持続可能なのか。一度立ち止まって考えてみる必要があるのかもしれませんね。
なぜ日本ではネオニコチノイドが使われ続けるのか
そもそもネオニコチノイドは、日本で生まれた農薬です。1990年代に、毒性の高い有機リン系農薬に代わる「より安全な農薬」として開発・普及しました。「ネオニコチノイド」という名称自体も、1993年に東京農業大学の研究者が提唱したものです。必要から生まれ、日本が育てた農薬でもあります。
EUが規制を強化する一方、日本がむしろ緩和方向に動いてきた背景には、いくつかの理由があります。
背景には日本の気候があります。温暖湿潤で病害虫が多く発生する日本では、冷涼乾燥なヨーロッパと比べて農薬の必要性がそもそも高い。その必要に応える形で開発・普及し、主要品種の多くが日本企業によるものになっていきました。
これ、私の実感としてもわかる部分があって。農地が広がる実家では、薬味野菜ですら虫に食べられてしまっていました。一方、コンクリートに囲まれた今のアパートのベランダでは、無農薬でも十分育てられています。
環境が違えば、農薬の必要性もまったく違う。EUと日本で規制の方向性が違うのも、こうした背景を考えると一概に「日本がおかしい」とは言い切れない部分もあります。
散布型が使いにくくて無農薬寄りになっていた
私はこれまで、唐辛子スプレーや納豆菌培養液などによる虫除けを試してきました。
私が農薬をほとんど使ってこなかったのは、意識が高かったからではありません。
散布型の農薬が、単純に使いにくかったからです。
ベランダでの作業は狭く、風向きも読みにくい。マスクをして、風のない日を選んで、近隣への飛散も気にして——そこまでするくらいなら、物理的に虫を取るか、被害を諦めるか。気づけばそういう選択をしていました。
結果として農薬をほとんど使わない栽培になっていたのですが、それは信念ではなく、面倒くさかっただけです。
マグァンプDを使ったのも、粒を土に混ぜ込むだけで済むからでした。散布しない、飛ばない、簡単。そのくらいの理由です。
ミニトマトは本来虫がつきにくく、無農薬でも十分育てられます。それでもあえて農薬を使ったのは、連作障害を恐れていたため。肥料と一緒になっているマグァンプDは手軽だし、害虫対策と栄養補給が1つでできて便利だなあと。
それに、パッケージには「30日程度で効果が切れる」と書いてあって、ミニトマトを収穫する頃にはほとんど農薬成分は残っていないのかな、と思っていました。
自分では「農薬をほとんど使っていない」という感覚でいました。粒剤は農薬という意識が、薄かったのだと思います。
窓サッシで死んでいた、1匹のミツバチのこと
今年の春、窓サッシのレールにミツバチが一匹、死んでいました。
そのときは特に気に留めませんでした。迷い込んで出られなくなったのかな、くらいで。
でも今回、ネオニコチノイドのことを調べていて、ふと思い出しました。
マグァンプDを混ぜ込んだミニトマトのプランターは、そのベランダに置いていました。ネオニコチノイド系農薬は植物体内に浸透し、花粉や蜜にも移行することが知られています。ちょうど花が咲いたばかりのミニトマト。
たった一匹のことです。因果関係なんてわかりません。力尽きて死んでしまっただけかも。でも、もしかして私のせいだったのかもしれない、という考えが頭をよぎりました。
良かれと思って使ったわけでもなく、ただ楽だから使った粒剤が、あのミツバチに関係していたとしたら。
それが今、一番引っかかっていることです。
「家庭菜園だけ無農薬」に意味があるのか?
それでも、家庭菜園で農薬を減らすことに意味があるのか、と考えます。
確かに、近くに養蜂をやっている方がいれば絶対に気をつけなければいけません。ここでは、「自分の健康のために、家庭菜園で無農薬にこだわること」に限って考えてみます。
スーパーの野菜、外食、お惣菜。日常の食事全体で見れば、家庭菜園の占める割合はごくわずかです。妊婦の尿からほぼ100%検出されるというのは、家庭菜園とは無関係に、すでに社会全体に広がっているということです。
お米を作る時にカメムシ対策として大量に使われている。私自身、地方在住・実家は農家でしたから、農薬がなければまともなお米が作れないことはわかっています。妊婦の尿や水道水中からの検出は、このような大規模使用によるものの方が影響が大きいと思います。個人が気をつけたところで、完全に避けることは現実的ではありません。
それでも、自分が使う農薬を減らすことと、こうして知ったことを書いておくことには、少し意味があると思っています。
楽だからという理由で選んだ粒剤が、ミツバチに関係していたかもしれない。知らなかったでは済まない気もするし、知ったからといってすぐにどうにかなる話でもない。
もっとも、ミツバチだって巣を作られたら困ります。換気扇の中や室内に巣ができたら、迷わず殺虫剤を使うと思います。自分の都合で、守ったり排除したりする。それも正直なところです。
答えは出ていません。ただ、知る前には戻れないとは思っています。




